第 1 部:美術品の購入動向・意識調査
文責:綿江彰禅(一般社団法人芸術と創造)
ジャンル別市場規模(2021年)
チャネル別市場規模(2021年)
文責:綿江彰禅(一般社団法人芸術と創造)
文責:綿江彰禅(一般社団法人芸術と創造)
【調査結果サマリー・考察】
◼ 輸出入ともに2020年は減少(輸出は特に大きく減少)したが、2021年は一転してともに増加に転じた。昨今の日本の現代アートの値上がりなどを踏まえると、我々の予想よりも輸出の伸びは小さかった。
◼ コロナの収束の兆しが見え、一気に物流が活性化し、パンク状態となっているとも言われている。 取引の喫緊制の低い美術品は、よりこの影響を大きく受けているとも考えられる。 来年以降にニーズの拡大を反映して大きく数字が変動するかもしれない。引き続きモニタリングを行いたい。
文責:綿江彰禅(一般社団法人芸術と創造)
☑︎分析においては財務省「貿易統計」を活用し、分析対象は「書画」、「コラージュその他これに類する装飾板」、「銅版画、木版画、石版画その他の版画」、「彫刻、塑像、鋳 像その他これらに類する物品」とし、これら4つの区分をあわせて美術品と定義し た。
☑︎2020年のアートオークション市場は落札件数は多いものの、総売買代金は低下
◇試作版アート指数の提案③
アート指数算出プロセス
◇試作版アート指数の提案④
各カテゴリーの経年変化を概観
アートは低流動性資産としての特徴を持っており、ポートフォリオに組み込む場合、伝統的な金融資産である流動性の高い資産と共に管理することは難しいものの、リバランスを行い最適化するニーズがある。アート指数はそのような利用を仮定して試作している。ここでは、実際に既存の株価指数とどのように比較できるのかを見ていく。アート指数を既存の指数と比較するために、比較対象の指数も2006年を1000としてスコア化した。
まず、海外の指数の代表としてS&P500と比較する。図9にS&P500を含めたチャートを作成した。灰色の線がS&P500で、他の色の線は凡例のように各作品群を表している。S&P500のチャートを見ると、2008年のリーマンショックで大きく下落しているが、以降は2017年までは上がり調子を維持している。2018年に下げたが2019年には大幅に上がっており、2006年から通してみると好調を維持している。そのようなS&P500と比較すると、「Domestic Art」は低調を維持していることが明確になる。「Foreign Art」は2009年から2010年までの特定の期間のみ同じように上がっているが、他の期間は全く異なる動きとなっていた。「Contemporary Art」については、2009年以降は上がり調子な点は共通していて、S&P500が先行して2008年、2018年に下がり、後から、2009年と2019年に「Contemporary Art」は下げていた。金融市場に遅行してアート指数が動く特徴が見られた。なお、全体の傾向として伸びている点は似ていた。表1の相関係数を見ると、国際的に取引される作品群である「Contemporary Art」とは強い正の相関があり、チャートから読み取れたように強い関連性があることが分かった。「Foreign Art」とは弱い正の相関、「Domestic Art」とは非常に弱い負の相関となっていた。
実際に資産としてアートを売買する際には、今回のアート指数では十分ではないことも確かである。国際的に利用されているアート指数の内、データが公開されている「ArtpriceIndexes」と比較して、そこからアート指数の実用化に必要な点を探る。
「Artprice Indexes」はフランスの美術品価格情報提供会社 ArtMarket.com およびその部門であArtprice.com が提供しており、1998年から算出を開始して、1年に4回、4半期ごとに算出している。すでに23年間分のデータが存在しているため、長期保有が前提のアートにおいて、十分な期間を参照できる指数になっている。また、算出間隔が1年以下の短い期間になっていた。
「Artprice Indexes」の算出対象は Artprice.com が収集したアンティークや家具を除いた取引データで、この点は今回の試作版と共通していた。しかし、算出した指数は総合指数に相当する「Global Index」と、絵画や彫刻などの作品分類ごとの指数、作家の誕生年で現代や戦後などに分類した指数などの3種類以上ある。予め、資産性や流動性に着目して作家を選定した上で算出した指数としては「Artprice100」があり、基準を満たした作家100名のみで構成されている。
図10では「Artprice Indexes」と今回試作したアート指数をまとめて描画した。「Artprice Indexes」は「Global Index」と作家の誕生年で現代や戦後などに分類した指数群を対象としている。なお、「Artprice Indexes」は1998年を100として相対値を算出しているため、それに合わせて試作版も100を基準値として変換した。結果として、「Artprice Indexes」の総合指数にあたる「Global Index」は最高でも200台であり試作版アート指数との差は大きくない。しかし、「Post-War」や「Contemporary」といった指数のパフォーマンスは試作版アート指数のいずれよりも高い。ここから分かることは、総合指数のみで把握できるトレンドは限られるため、「Post-War」や「Contemporary」のような作家や作品を適切に分類した指数を持つのが望ましいということだ。
以上から実用されるアート指数には、算出期間や算出間隔の考慮、市場全体を把握できる総合指数と分野ごとの状況を読み解く指数の用意が必要だと考えられた。
今回の試作版アート指数は、国内のアートマーケットを概観し、金融商品と比較するためのツールとして作成した。そして、実際にアート指数からはどのようにアートマーケットを読み解けるか、既存の指数や金融商品と比較すると何が分かるかを考察して、その特徴を見てきた。アートを金融資産と共にポートフォリオに組み入れるためには、ベンチマークとなる指標が必要だ。今回の試みはその安定供給のための第一歩であり、アートマーケットにおける情報の非対称性の解消や透明性の向上につながる取り組みである。チャレンジングではあるが、算出した範囲ではマーケットの状況を確認できるなど一定の成果を得られたと認識している。
一方、国内のアートオークション市場に精通している専門家や金融業界の専門家に取材したところ、実用化までに対応すべき課題も見つかった。例えば、算出期間を長くするべきではないかという意見があった。アートは株などのように頻繁に取引するものではなく長期保有される傾向がある。そのため、その期間以上のデータが必要だというものだ。他にも指摘はあったが、 いずれも試作版アート指数が実用化されるために対応が必要な課題であった。
次の段階では、海外のデータを取り込んで課題に対応していく。資産としてのアートを考えると、海外でも取引される作家や作品であることが重要である。その意味でも海外のオークション会社のデータを加え、設計や分析の精度を高めていきたい。また、海外のデータを扱うことで日本と海外のアートマーケットの比較も可能になるため、日本のアートマーケットの特徴や日本出身の作家のアートマーケットにおける傾向の分析を進めていく。このような対応を通じて、日本のアートマーケットや日本出身の作家を新たな角度から捉えることで、新規の顧客獲得や国内のアートマーケットの拡大の布石となるように進めていきたい。
◼ コロナ禍の影響で2020年は世界のアートマーケットの売上が22%低下したものの、日本での減少幅は限定的であったというのは、ギャラリー等の休業期間がほぼ一緒(平均9週間との報告もある)とした時に、世界のアートマーケットはクロスボーダーの売買が多いため、国を跨いだ移動の制限の影響を大きく受け、日本国内では、日本人作家の作品を日本人が購入することが多いため、減少幅が限定的であったと推測される。
◼ また、昨年では百貨店とギャラリーが拮抗していたものの、今回はギャラリーが大きく躍進する結果となった。これは、昨年多くの雑誌がアートマーケットの実情についての特集を組んだり、アートフェアなどによってギャラリーに関する情報が増加したことによるものであろう。その結果、価格競争力のない百貨店からギャラリーへ購買の場がうつることは自然であると考える。
◼ 一方で、インターネットでの販売が伸びないのは、意外とも思われる。EC全体では、コロナ禍もあり、実店舗からのシフトが顕著であるが、日本のアートマーケットでは、伸び悩んでいる。商品ラインナップが、知名度の低い・低価格の若手作家に偏っていることや、サイトの信頼性をどう見せるかに課題があるのであろう。
◼ 美術館がコロナ禍での休館を余儀なくされたために、入館料を含む美術関連サービス市場は大きく落ち込んだ。一方で美術品市場は減少幅が限定的であったということは、美術館を見に行く人と美術品を購入する人は別々である可能性が高い。美術品を購入する人が見に行くような、現代美術の展覧会が増えることがきた期待される。
◼ また、購入金額が高額になってきているので、蒐集から投資目的での美術品購入となっている。この傾向が続くことを今後も期待したい。
◼ 本章の調査に関しては、ジャンル別市場規模でのジャンルが現状に即していないので、改変を期待したい。
◼ 美術品は数千円〜500億円までの極めて価格帯のとても広い商品である。100万円以下で主にインテリア目的での購入となり、プレゼントとしても購入されている。100万円以上ではコレクション目的が主となっていることがわかった。
◼ 美術品・アート作品というワードで著されているが、実際には価格帯に伴い、商品性が異なるため、今後は価格帯によって区別して分析する必要が高まるだろう。
◼ 企業会計上は、1点30万円で一括償却、30万円~100万円で7年定率減価償却、100万円以上は資産計上となっている。これを、それぞれ美術関連品、美術工芸品、美術品と呼ぶこともできよう。
◼ ポスターがメインなのかもしれないが、インテリアとして壁を埋めるために購入するというのが、最も多い理由であるが、ベースには美術館に行った記念というのがあるのであろう。カタログなどは、美術品購入をしている層も購入するであろう。
◼ 好きというのはなかなか難しい。見たことがあるからや有名だからということも好きに含まれることがある。
◼ 絵画のポスターを通じてアートマーケットに参加するという方法はあるのだろうか?
◼ 展覧会来訪記念や美術の裾野を広げるという目的以外の、例えばアートマーケットに参加する手段としての美術関連品を模索しても良いのかもしれない。
◼ コロナ禍で現代アートがかなり買われている実感があり、実際アートフェア東京2021では営業時間の短縮にも関わらず、過去最高の売り上げとなった。
各ギャラリーでは新たなコレクター層の出現を報告しているが、本章によってその動向が明らかになった。
◼ 価格帯による切り分けをしていないので、どの程度の美術品かわからないがミュージアムショップを母数から除いた中で、アートフェアも含めたギャラリーでの購入が購入チャネルの半分近くとなった。インターネットサイトと百貨店はどちらも15%程度。東京でもギャラリーコンプレックスができたり、アート系以外のメディアでもアートギャラリーが取り上げられた結果、アートギャラリーの認知が広がり、メインの購入チャネルとなった。
◼ ギャラリーでの購入動機は、展示の良さと所属作家という、真っ当な結果であり、今後もギャラリーでの購入が伸びていくことを感じさせる。さらに、作品のおすすめする力などが増えてくることが期待される。また、百貨店よりもリーズナブルに買えるので、価格についての理由も出てくることが期待される。
◼ インターネットサイトでの購入では、手軽ではあるものの、信頼できるサイトかどうかわからない(贋作の可能性)、そして低価格のものしか販売していないという問題での伸び悩みとなった。
◼ ギャラリーでの購入が主流となってきたので、海外アートマーケットのように今後はどのギャラリーで購入するかが作品購入の大きな理由となっていくことが期待される。
◼ 1988年からのグラフであるが、現在に至るまでほぼ常に輸入の方が輸出を上回っているということが興味深い。本章データのみがサプライサイドの信頼できる統計であり(推計ではない)、その数字が常に日本が美術品を買い越している結果である。
◼ 海外で高値ばかり買わされていて、安値で買い戻されているとばかりは言えないと思うので、日本は美術館を含めたコレクター大国なのかもしれない。
◼ 例えば、この1988年に多くの地方公立美術館が手頃なサイズのピカソを1〜2億円で購入してきたが、現在の取引価格は20〜30億円である。実は埋蔵アート資産はそれなりの規模かもしれない。
◼ アート後進国を自称してしまうこの国ではあるが、見直す必要があるかもしれない。
◼ また、作品価格の高い日本人の中堅・トップの作家が輩出されて輸出額も増加することが期待される。
◼ 本章でも第2章同様、現状に即したジャンルの再編が期待される。
◼ 今回の試作版アート指数について、まだ改良の余地はあるものの、まず、値動きによって幾つかの商品性に分けられること、そして、他の商品とのパフォーマンスの比較をしたというのは、初めてのことであり、特筆すべきことだと思う。これにより、我々は、現況及び今後の見通しの中でアートに投資すべきかどうかを考えることができるようになった。
◼ 今後は個別の作品のパフォーマンスをこの指数に対して測ることができるようになるほど、この指数の精度を上げることが求められる。通常、個別株価はそのマーケットの指数に対して、アウトパフォームもしくはアンダーパフォームしているかで語られる。
◼ このアート指数がさらに国別のマーケットによって算出され、それらが比較できるようになったら、さらに面白い。
◼ 価格分析が進んで、アートを買うということが、どういうリスクを取っているか認識できるようになることを目指したいと思います。
◼ 6年目となった今回の調査で、本事業の今後の方向性がかなり明確に示せたと思う。
◼ 当初はアートを購入するという、どごにいるのかわからない数少ない人物像(ペルソナ)を捉えるという目的が強かったが、5年経ってアートを購入するのがそれほど特別ではなくなってきたので、最近は購入チャネルの調査や価格帯ごとの動向調査などにシフトしてきた。
◼ 本調査は継続するが、今後はさらにアートの商品性の向上を助けるような方向にシフトしていきたい。そのためにはギャラリーの質の向上も求められる。
◼ さらに今後はメディアの向上に期待したい。日本ではアートメディアが報じるのは、作家・作品の作風のみで、ジャンルごとのマーケットの推移や各作家の作品の割高・割安などの情報はない。海外では普通に記事として報じられている。
◼ 既得権益者には都合の悪いこともあるだろうが、マーケットが拡大していくには価格の透明性と、売買の材料となるような情報が十分に供給される必要がある。
◼ 購買量の推計と、その意識調査から始まった本調査ではあるが、今後はアートマーケットの成長の一助となるよう、調査・分析を広げ、ひいては新たな提言を行えることを目標としていきたい。
エートーキョー株式会社:https://atokyo.jp
一般社団法人芸術と創造:http://www.pac.asia
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