世界の美術品市場規模の推移
ジャンル別市場規模(2020年)
チャネル別市場規模(2020年)
美術関連品の多くは博物館・美術館で多く購入されていると考えられ、感染症拡大の影響にて博物館・美術館の入場者も減り、また美術関連品の売り場では“密”を避けるための対策が行われていたことから、昨年と比べて大きく減少したものと推測される。
ジャンル別の購入経験・過去3年間の購入率(2019年)
20代女性の関心を持つ展覧会(2020年)
(n=384)
美術展の開催を見聞きしたメディア(2020年)
美術品の輸出入額の推移
美術品の輸出入額の推移
日本における30年間のアートオークションにおける取引データを調査・分析
■1.1 はじめに
美術品の価格推移を調査・分析を行うにあたって、⑴商品詳細⑵取引時期⑶取引価格という以上3つのデータを収集することが必要である。これらのデータが蓄積されているのは公開オークションであり、今回は特に日本でのアートオークションのデータを活用・分析する。公開オークションは、売り手が最も良い条件で売却するために考えられた古来からある仕組みである一方、商品の価格を周知するための役割も大きい。
美術品市場では商品の価格を一ギャラリーがマーケットメイクをできる額を超えてしまった場合に、コレクター同士が直接売買を行うことができるための仕組みとも言える。アートフェアでの取引を含むギャラリーでの相対取引の取引データを収集するのは困難なので、今後は美術品の価格推移を調査するにあたってアートオークションのデータを取り扱うこととする。
日本における一般に開かれた常設のアートオークション市場は1990年がはじまりだと考えられる。その30年の歩みと市場形成過程をデータで確認していくことにより、そのマーケット構造や課題を検討し、日本よりはるかに規模の大きい海外の美術品市場との差がなぜできたのかを考察していく。
■1.2 調査方法やデータに対する基本的な考え方について
•データの収集について
本調査では、インターネットで落札価格を公表しているアートオークションハウス(以下、オークションハウスとする)のうち、日本に本社を置くものを調査対象とした。収集できたデータ量は合計で約52万件にのぼるが、本邦に籍を置くオークションハウスで落札価格が電子化されていなかったり、開示されていなかったりするものもあり、全データではない。また、収集した情報も全ての年次のデータがあるわけではなく、オークションハウスもデータの完全性を保証するものではないため、社名や団体名は非開示とする。
•分析対象となるデータ期間
収集したデータの期間は1990年から2019年である。統計分析の見地から調査対象のデータを検討したところ、分析に適する母集団は2006年以降であると判断された。これは今回使用する分析手法を適用する際の適切なデータ量や新しいオークション市場の開設などの要因を総合的に考慮したためである。1.3節以降の分析では、2006年より前のデータについても言及するが、単純な記述統計にとどめ、詳細な統計分析については2006年以降を標本母集団としている。また、今回は収集したデータ約52万件の中から、分類基準に適合する出品件数199,605件(2006年以降のデータは173,019件)に絞り、分析の対象とする。
•価格データについて
本調査で用いる価格データは各アートオークション会社の公表する「落札価格」ではない。オークションでは落札価格に対して、手数料や保管、輸送、保険等の諸経費がかかるのが一般的で、その費用は落札価格の15%以上となる場合が多い。今回は、落札者が支払う現実的な金額で各種分析を行うために、以下のような数値を設定し、価格指標としての「取得価額」を算出した。
ただし、諸経費のうち輸送・保管に関わるコストは落札作品の大きさ、重さ、壊れやすさ、価格の過多、輸出の有無などにより相当変動が大きいため除外している。
•取得価格=落札価格+手数料+保険料
☑︎ 落札価格:各オークションハウスが公表する落札価格
☑︎ 手数料:2020年8月時点の各オークション会社の手数料を平均した額(落札価格の13.4884731%)
☑︎ 保険料:各種動産保険、美術品保険における料率や商慣習などをヒアリングした結果、今回は落札価格の1%と定義した。
☑︎四分位の導入
データの値を大きさの順に並べたとき、4等分する位置の値を四分位数という。四分位数は、小さい方から順に第1四分位数、第2四分位数(中央値と同じ値)、第3四分位数といい、データの散らばり度合いを表現するときに使用する。後に出てくる中央値とは第2四分位数にあたる値である。
表2は,落札された作品の取得価額の四分位数を,表1と同様の取引年次別に整理している。期間全体では,第1四分位数80[千円]から第3四分位数481[千円]の間に落札された作品の50%が含まれており,中央値は172[千円]であることが示されている。 大半の年次で価格の上下変動が観察できるが,近年では2015年,2016年,2017年において価格分布が同一であるという帰無仮説を棄却できない。
したがって, 2010年以降は中央値の推移をみてわかるように比較的価格が安定している時期であるといえる。
◇オークション市場における落札価格の特徴③
☑︎価格分布の特徴
②右裾が重い
美術品に限らず消費や投資は需要者の購買力に依存している。人々の購買力を示す所得や資産の分布は多くの場合,右裾の重い分布であることから,取得価格の分布もこれを反映しているといえる。
③平均値付近に頻度が高い
また、平均値付近にデータが集中し過ぎている点も特筆すべき点であるが、後述するように、業者間取引市場という特徴を持ちながら始まった本邦のアートオークション市場の成り立ちを踏まえると、一般のオークション参加者(買手側)の平均買付余力の額とみるよりは、画廊同士の業者間取引の存在を考えるのが自然であろう。だとすると、アートオークション市場は画廊等の一つの仕入れを行う場という機能を果たしていることになる。
☑︎箱ひげ図による分析
図2は取得価格の推移を取引年次別の箱ひげ図で示している。ただし,取得価格の値幅を圧縮して特徴を掴みやすくするために縦軸スケールを常用対数としている。箱ひげ図は第1四分位点から第3四分位点までの高さに箱を描き、中央値で仕切りを描くことで作成される。図1でも示されたとおり、取得価格はファットテール(右裾の重い分布)である。ここで,「箱」の上部にある「ひげ」は第3四分位数 + 1.5×四分位範囲となる値を,下部にある「ひげ」は第1四分位点 - 1.5×四分位範囲となる値をそれぞれ示している。図には上部の「ひげ」を超える観測点が記されており,ほぼすべての取引年次において極めて高額な外れ値が観察できることがわかる。☑︎原資産価値を有する美術品が存在
どの年次においても箱ひげの上限である第3四分位数を超える観測点がいくつか観察されており,極端に高い取得価額の作品がふくまれていることがわかる。
需要と供給による価格の決定は通常、買手の資産の分布に依存するという前提を置いたうえで、さらに図1の結果を合わせて検討すると、一定数のビッグコレクターの存在が考えられる。
この極端に高い価格の作品について、マーケットの状況によらない原資産価値を有する美術品が存在すると言える。
■市場の概観
1988年頃から始まったとされるバブル景気により世界的に美術品の価格が上昇し、日本の美術品市場でも日本画、日本洋画、印象派絵画を中心に美術品価格の上昇が続いた。そのさ中の1989年、日本画、日本洋画を扱う大手の画廊により、業者交換会を母体とするシンワアートオークション(以下シンワオークション)が設立され、翌1990年9月、日本で初めて公開の場での本格的な美術品オークションが開催された。第1回のセールでは、日本を代表する錚々たる顔ぶれの日本画家、洋画家の名品が出品され、出品作102点のうち1億円以上で落札された日本画家は13名、洋画家は4名という好調な結果となった。しかし、落札率は81%であり、不安の要素も見られる結果でもあった。
その不安は、1990年5月ごろからの世界的なバブル崩壊の兆しによるもので、翌1991年2月に開催された第2回のセールでは、出品作85点のうち1億円以上で落札された日本画家は東山魁夷、杉山寧の2名、洋画家は小磯良平の1名のみであった。落札率も54%と不振に終わった。同年5月に開催された第3回のセールでは、既に1億円以上の落札予想価格の作品は出品されず、出品作84点のうち1千万円以上で落札された日本画家は伊東深水の1名、洋画家は林武の1名だけであった。また前回同様落札率も57%と不振が続いた。
第1回のセールから1年後の9月のセールでは、出品作も75点と大幅に落ち込み、このうち1億円以上で落札された作家は杉山寧の1名だけであった。落札率は32%という結果で、バブルの崩壊が確実な形で示された。第1回のセールから4年後の1994年10月のセールでは、落札率こそ74%に改善したものの、1億円以上の落札予想価格の作品は菱田春草の一点のみで(不落札)、出品作145点のうち1千万円以上で落札された日本画家は東山魁夷、村上華岳、横山操、富岡鉄斎の4名、洋画家は梅原龍三郎、児島善三郎、山口薫、藤田嗣治の4名だけであった。
■時代の顔:バブル期を代表する作家
日本画(現存):東山魁夷、加山又造、平山郁夫、高山辰雄、杉山寧、奥田元宋
日本画(物故):横山大観、速水御舟、村上華岳、上村松園 日本洋画(現存):中山忠彦、牛島憲之、中川一政
日本洋画(物故):梅原龍三郎、小磯良平、岡鹿之助、山口薫
2. 1995年~1999年 市場の調整期
■市場の概観
1990年後半から始まったバブル崩壊により世界的に美術品の価格が急落し、日本の美術品市場でも日本画、日本洋画、印象派絵画を中心に美術品価格の急落が続いた。
1994年頃から市場は調整局面に入り、1995年9月のセールでは、1億円以上の出品作品はなく、出品作139点のうち1千万円以上で落札された日本画家は奥田元宋、村上華岳の2名、洋画家は林武、三岸好太郎の2名だけであったものの、落札率は87%とセールとしては好調であった。これは1/10まで下落をすすめてきた美術品価格の底が見え始めてきたことを示している。その後も、美術品価格の相場の低調の流れは引き続いていくが、下落率は縮小しつつあった。オークションでの出品作品を見ると、バブル期に見られた物故を中心とした日本画、日本洋画の錚々たる大家の出品は減り、千住博など既存の画壇に属さない新進の作家銘柄が登場する。
一方で、欧米はどうだったか。平成11年度11月版の「世界経済白書-アメリカ経済の長期拡大と問題点-」(経済企画庁)によれば、「アメリカ経済は、91年3月に景気回復を始め、99年10月に至るまで8年7か月もの長期にわたる景気拡大を続けている。」とある。それを裏付けるように1997年頃から欧米の美術品市況は回復傾向が鮮明になる。オークション市場でも、1998年6月のSotheby’s Londonのセールでモネの「睡蓮の池と水辺の小道」が落札予想価格上限の3倍の1800万ポンドという最高額で落札されるなど好調に推移した。そうした好調な欧米の美術品市場との接点を持つ、藤田嗣治、荻須高徳、ヴラマンク、ユトリロ、シャガールなどの国際銘柄作家の作品が、日本のオークション市場に出品されるようになった。
1999年9月のセールでも、1億円以上の出品作品はなく、出品作234点のうち1千万円以上で落札された日本画家は村上華岳、横山大観の2名、洋画家は岡鹿之助、梅原龍三郎、浮田克躬の3名だけであったものの、落札率は87%とセールとしては好調であり、回復の傾向を見せつつも、欧米の美術品市場と比べ、未だ市場が調整局面であることを示唆している。
■時代の顔:調整期を代表する作家
日本画(下落):杉山寧、高山辰雄、岩橋英遠、奥田元宋
日本画(新規):千住博 日本洋画(下落):梅原龍三郎、小磯良平、中山忠彦日本洋画(新規):藤田嗣治、荻須高徳
海外(新規):モーリス・ド・ヴラマンク、モーリス・ユトリロ、パブロ・ピカソ、ベルナール・ビュッフェ、マルク・シャガール
3. 2000年~2004年 調整後の市場とITバブル、現代美術の登場
■市場の概観
2000年以降も価格は低迷したままではあったが、2000年9月のセールでは、出品作は248点にのぼり、うち1千万円以上で落札された日本画家は鏑木清方、上村松園、横山大観、橋本関雪、竹久夢二の4名、洋画家は藤田嗣治、岡鹿之助、佐伯祐三の3名だけであったものの、落札率は87%とセールとしては好調であった。セールにはオノサト・トシノブ、吉原治良など現代美術作家の顔ぶれも見られ、海外で伸長している現代美術市場への呼応として見ることもできる。
2001年9月のセールでは、231点の出品に対し、1千万円以上で落札された日本画家は平山郁夫、加山又造、伊東深水、小野竹喬、小倉遊亀の5名、洋画家は藤田嗣治、佐伯祐三、林武、荻須高徳、岡田三郎助の5名、海外作家はジョルジュ・ルオー1名であり、落札率86%に加え、高額の価格帯での活況なセールであった。これは1999年から2000年にかけてのITバブルによる好況の影響と考えられ、わずかながら美術品市場にもその恩恵がもたらされたと見るべきであろう。ITバブル崩壊後の2002年から2003年にかけての不況の影響も、2002年9月のセールでは落札率は88%を誇りながら、1千万円以上で落札された作家はわずかに2名と振るわず、翌2003年9月のセールでは、1千万円以上で落札された作家は7名に盛り返すものの、落札率は83%と落ち込んでいる。
しかしながら、調整を終えた市場全体としてみると、2000年から2004年にかけての美術品市場は、価格の大幅な上昇は伴わないが、総じて安定した状況を見せていたものといえる。
■時代の顔:
日本画(常連):横山大観、東山魁夷、平山郁夫、加山又造、棟方志功
日本洋画(常連):藤田嗣治、荻須高徳、梅原龍三郎
現代美術(新規):オノサト・トシノブ、吉原治良
4. 2005年~2009年 リーマンショックの影響と現代美術市場の創設
■市場の概観
比較的好調に推移した2000年~2004年の美術品市場の流れを受けて、2005年以降もオークション市場での美術品の取引量は増加し、落札率も高止まりの傾向が続く。海外の美術品市場も現代美術を中心に好況で、そうした傾向は2005年のセールに見て取れる。
2005年9月のセールでは、出品作は181点で、うち1千万円以上で落札された日本画家は平山郁夫、横山大観、加山又造、杉山寧、前田青邨の5名7作品、洋画家は荻須高徳、坂本繁二郎、岸田劉生、梅原龍三郎、鴨居玲の5名6作品と多く、海外作家ではピカソの油彩作品が1億円を超えて落札されたのに加え、1千万円超えの海外作家は、ヴラマンク、キース・ファン・ドンゲン、ピカソ、ジャン・フォートリエら4名4作品であった。落札率も92%と極めて好調であった。特に、ジャン・フォートリエ、サム・フランシス、アントニ・クラーベら海外現代作家の作品の出品が目を引き、海外での現代美術作家の市場での伸長を裏付けるものとなった。この美術品市場の好調は2007年まで続き、2007年4月には、海外での現代美術市場の躍進に乗るかのように、シンワオークションで第1回の現代美術専門のオークションが開催されることになる。
2007年4月の第1回の現代美術のセールでは、出品作は120点で、うち1千万円以上で落札された作家は奈良美智、小林孝亘、天明屋尚の3名6作品、100万円以上での落札は、草間彌生、奈良美智、村上隆ら既に欧米の美術品市場で評価の高い作家に加え、斎藤義重、李禹煥、蔡國強、加納光於、町田久美らが登場した。落札率は96%と極めて好調であった。2007年11月には第2回の現代美術のセールも開催され、出品作は初回を上回る120点で、うち1千万円以上で落札された作家は草間彌生、李禹煥、宮島達男、石田徹也、アンディ・ウォーホルの5名8作品、不落札に終わったが、草間彌生のアクリル/キャンバス作品が落札予想価格を6千万円まで付けるなど活況であった。落札率も99%と驚異的なものになった。こうした美術品市場の拡大の動きの中で、2007年からリーマンショックが発生し、2008年後半から2009年にかけて美術品市場でも世界的にその影響を受けることになる。
2008年4月のシンワオークションの現代美術のセールは、出品作は354点で落札率は91%と好調で、うち1千万円以上で落札された日本人作家は奈良美智、草間彌生、白髪一雄、山口晃4名で、海外作家はルーチョ・フォンタナの1名だった。しかし、2008年11月にマカオで開催されたシンワオークションの現代美術のセールは、出品作は296点、落札率は52.4%と急速にセール状況が悪化した。続く12月のワイン、デザインとの共同出品で開催された現代美術セールでは、現代美術の落札率は70%、平均落札価格は7万円と低調なセールに終わった。以後、シンワオークションでは単独の現代美術のセールは開催されなくなり、日本画・日本洋画などと一緒に開催されることになる。
■時代の顔:
日本画(常連):横山大観、東山魁夷、平山郁夫、加山又造、棟方志功、千住博
日本洋画(常連):藤田嗣治、荻須高徳、梅原龍三郎
現代美術(新規):草間彌生、奈良美智、李禹煥、白髪一雄、斎藤義重
5. 2010年~2014年 世界の美術品市場の回復と現代美術市場の躍進
■市場の概観
リーマンショック後の日本の美術品市場は依然低迷を続けていた。リーマンショック以前から低迷を続けてきた日本画、日本洋画市場は、リーマンショックによる際立った影響を受けず、2009年のシンワオークションでは、日本画、日本洋画、印象派絵画を中心としたセールでは、出品作品122点、落札率90%であった。リーマンショック以前に急伸した現代美術市場は、世界的な美術品市場の低迷のあおりを受け、市場が大幅に落ち込むことになった。ここに、日本画、日本洋画を中心とした日本市場と、世界の美術品市場と連動した現代美術市場間の市場動向の大きな乖離が露呈されることになった。
2010年になると、欧米の美術品市場はリーマンショックの影響による落ち込みから急回復の動きを見せる。日本画、日本洋画市場は、相変わらず横ばいあるいは下降トレンドの相場を示すが、現代美術市場は世界の美術品市場の急伸と呼応した形で上昇トレンドを描いていくことになる。
2009年からシンワオークションが現代美術からの事実上の撤退の動きを見せ、日本画、日本洋画中心のセールに回帰する一方で、世界的な現代美術の躍進を見て、2012年2月、現代美術専門のオークション会社としてSBIオークションが誕生する。 2012年2月の第1回のSBIのセールは、出品作は92点で、日本洋画の小磯良平の作品が1点出品されるが、その他はすべて現代美術作品で構成されていた。落札率は81.5%で落札平均価格は536万円(落札手数料込)と上々の出来だった。うち1千万円以上で落札されたのは、草間彌生3点、李禹煥2点で白髪一雄の713万円での落札が続いた。なかでも草間彌生の「Infinity Nets WHXOTLO」は1億を超えての落札となった。
2012年9月のシンワオークションのセールでは、出品作は85点で、現代美術の李禹煥、元永定正の作品が3点出品されたが、その他は日本画、日本洋画、海外作家の作品で構成されていた。落札率は86%で落札平均価格は203万円の出来だった。うち1千万円以上で落札された作家は村上華岳の1名だけだった。日本画、日本洋画の出品作家の顔ぶれにはあまり変化が見られないが、千住博の作品が6点出品され、そのうち5点が落札価格上限を超えての落札となり、衰退著しかった日本画の市場での、人気の高い新規アイテムの登場をうかがわせた。
時代の顔:
日本画(常連):横山大観、東山魁夷、平山郁夫、加山又造、棟方志功、千住博
日本洋画(常連):藤田嗣治、荻須高徳、梅原龍三郎
現代美術(常連):草間彌生、奈良美智、李禹煥、白髪一雄
2015年~2019年 世界と繋がる日本の現代美術市場と市場の実態
■ 市場の概観
2015年~2019年の世界的な美術品市場では、現代美術を中心に、引き続き価格の上昇が続いた。日本の美術品市場も、現代美術の伸張と日本画、日本洋画市場の停滞という状況に大きな変化はない。日本画、日本洋画の市場では、千住博などごく一部の新規アイテムが出品される以外は常連作家の出品が続き、固定した状況が続く中、現代美術市場では世界の美術品市場との繋がりという利点を生かし、続々と新しいアイテムが投入されていた。
2015年1月のSBIのセールは、出品作は279点で、落札率は81.5%だった。このうち、草間彌生、奈良美智、村上隆、李禹煥、白髪一雄、元永定正ら常連の作家の作品はセール全体の21%を占める一方で、海外作家の割合は38%のぼった。それ以外の41%についてはロッカク・アヤコやタカノ綾などの新規アイテムと、田中敦子、横尾忠則、菅木志雄ら古参作家の再評価による出品となっていた。こうした状況はさらに広がる傾向を見せ、2019年10月のSBIのセールは、出品作209点(落札率は91.4%)のうち、日本人作家の作品はセール全体の10%に過ぎなかった一方で、海外作家の割合は90%を占めた。2015年に41%を占めた新規アイテムについては、ロッカク・アヤコ、五木田智央、ミスター、ハロシなどを除き、出品リストから消えている。
この現象から垣間見られるのは、海外の現代美術市場による日本の現代美術市場の吸収であり、日本発の新規アイテム作家の脆弱さであり、突き詰めれば、日本の美術品市場の凋落という見方もできる。現代美術市場の常連2作家である、草間彌生、奈良美智の2015年~2019年の間に2億円以上で落札された上位30位の高額作品は、すべて欧米、アジアのオークションでのセールで売買されたものだった。そのため日本では独り勝ちの印象を受けるSBIのセールでの平均落札価格は100~200万円台で推移しており、海外と比較すると小ぶりの作品が取引されるローカルな市場という姿が映し出される。また、新規アイテムが市場に続々と登場し、高騰ののち数年で消えていくという現象も多くみられ、現代美術ブームに隠された投機的な取引という側面も映し出している。
■時代の顔:
日本画(常連):横山大観、東山魁夷、平山郁夫、加山又造、棟方志功、千住博
日本洋画(常連):藤田嗣治、荻須高徳、香月泰男
日本洋画(下落):梅原龍三郎現代美術:草間彌生、奈良美智、李禹煥、白髪一雄、ロッカク・アヤコ、カウズ、五木田智央
参考:5年単位の総取得価額の集計 1990年~2004年
参考:5年単位の総取得価額の集計 2005~2019年