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文化庁委託事業
「令和2年度次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」


【本報告書掲載データの引用に関してのお願い】
■本報告書の引用に関しては原則、以下のとおり出所を明記してください。

・第一部
出所)「日本のアート産業に関する市場調査2020」(一社)アート東京、(一社)芸術と創造
ただし、掲載紙面の都合上、上記のように記載が難しい場合のみ以下のような記載も可と致します。
出所)「日本のアート産業市場調査2020」アート東京 / 芸術と創造 出所)アート東京 / 芸術と創造調べ
・第二部
出所)「日本のアート産業に関する市場調査2020」(一社)アート東京、(株)QUICK
ただし、掲載紙面の都合上、上記のように記載が難しい場合のみ以下のような記載も可と致します。
出所)「日本のアート産業市場調査2020」アート東京 / QUICK
出所)アート東京 / QUICK調べ


本調査の背景と目的 

■ 美術館の来場者数が世界有数ではあるものの、美術品が売買され、海外では原資産価値を有することが認められ、オルタナティブ資産としても扱われていることをするものは少なかった日本。ところがここ数年、にわかに若手実業家が美術品を購入し始めたことが、メディアでも取り上げられるようになった。

■宮廷画家など古来から産業として存在していたアート産業。しかしながら、我が国においてアート産業の実態を把握するための情報は未整備な部分が多く、市場規模ですら信頼性の高い形で明らかにされてこなかった。そのような状況を受け、日本最大級のアート見本市であるアートフェア東京を主催する「一般社団法人 アート東京」と文化芸術・産業政策のコンサルティングを行う「一般社団法人 芸術と創造」は、 「日本のアート産業に関する市場調査」 として2016年より、日本の美術品の購入動向について調査し、アート市場の規模や傾向などを分析し、発表・報告してきた。

■美術品の流通経路の分析にとどまっていたが、美術品の過去の価格推移を調査することで、商品性・市場性について分析をし、その資産性について検討すべく、今年は過去の国内公開オークションの価格推移について分析・考察した。

●なお、本報告書は以下のような構成となっている。

▶️第1部 美術品の購入動向・意識調査
 ・第1章:調査概要
 ・第2章:日本のアート産業の市場推計結果
 ・第3章:属性別のアートの購入傾向
 ・第4章:人々のアートへの関心と使用メディアとの関係
 ・第5章:美術品の輸出入の状況

▶️第2部 美術品の価格推移調査
 ・第1章:調査概要
 ・第2章:日本の公開オークション分析結果
 ・第3章:日本の公開オークションの歴史

▶️第3部 考察と今後の課題

 


第1章:調査の概要

☑︎例年通りインターネットアンケートにて実施。
☑︎性別、年代、職務状況、個人年収、世帯年収について日本全体の実際に分布に近い形で割り付けた(ただし所得が高い方は多めに回収)。
  • 本調査は主にインターネットアンケート会社が保有するモニターを対象としたアンケート調査に基づいている。アンケート調査は1次調査と2次調査の2段階に分けて実施した。1次調査ではこれまでと同規模の23,706サンプルの回収を行い、また、2次調査では、1次調査の回答者の中から「過去3年間で美術品を10万円以上購入」した方を対象としている。

  • なお、これまでの調査と同様に日本全体の市場規模を推計するために、1次調査においては総務省統計局「労働力調査」(2019年)を基に、「性(2区分)」、「年代(6区分)」、「就労状況(就業者・非就業者の2区分)」、「所得(就業者は個人年収により9区分、非就業者は世帯年収により6区分)」について日本全体の分布に近い形で回収した。また、所得が高い方が美術品をより購入していると考えられるため、個人所得・世帯所得が高い方に関しては実際の所得の分布よりも多く回収し、分析の際に日本全体の分布にあわせてウェイトバック集計(サンプルに重みづけをした集計)を行った。

  • また、当初回収サンプルより、その購入額等に非現実性・矛盾 が存在するものに関しては、一定の基準を設け、分析対象より除外した。


◇一次調査の回答者の基本属性

☑︎性別、年代、個人年収、世帯年収などについて日本の実際の分布に近い形に


◇調査項目 

☑︎購入額に関しては過去3年間の金額を調査し、推計においてはそれを単年に換算している事に留意されたい。

■市場推計のために、例年調査している項目は以下のとおりである。


第2章:日本のアート産業の市場推計結果

◇世界の美術品市場規模

☑︎過去10年間は約600億ドル(約7兆円)規模で推移。


世界の美術品市場規模の推移



◇本調査におけるアート産業の定義

☑︎アート産業を「①美術品市場」、「②美術関連品市場」、「③美術関連サービス市場」の合計値として定義


◇2020年調査の結果サマリー
☑︎「①美術品市場」…2,363億円、「②美術関連品市場」…379億円、
「③美術関連サービス市場」…456億円 と推計した。


◇ジャンル別市場規模

☑︎洋画、陶芸などが多く購入された。


ジャンル別の数値には重複が含まれるので、ジャンル別の美術品購入額合計はチャネル別の美術品購入額合計と数値が異なることに留意されたい。(美術品市場としては重複が存在しないチャネル別の値を採用している)

ジャンル別市場規模(2020年)


◇チャネル別市場規模

☑︎国内事業者売上の7割を百貨店と画廊・ギャラリーの2大チャネルが占めている。


チャネル別市場規模(2020年)



◇市場規模の推移(1/2)

☑︎2019年よりも「①美術品市場」、「②美術関連品市場」、「③美術関連サービス市場」ともに縮小。過去5年間の推移を見ると「①美術品市場」、 「③美術関連サービス市場」は大きくは変動せず 

美術関連品の多くは博物館・美術館で多く購入されていると考えられ、感染症拡大の影響にて博物館・美術館の入場者も減り、また美術関連品の売り場では“密”を避けるための対策が行われていたことから、昨年と比べて大きく減少したものと推測される。

☑︎「画廊・ギャラリー」は感染症拡大の影響を受け苦戦。一方、「百貨店」や「作家からの直接の購入」は堅調であった。百貨店は、近年、美術販売に力を入れるとともに外商や購入に関する敷居の低さが機能した可能性。


参考)百貨店の状況

☑︎2020年4~6月を除けば、過去3年間の売上高は比較的好調であった。

※推計の基となるアンケート調査では、過去3年間の美術品の購入額を質問している。

 

 

百貨店「美術・宝飾・貴金属」売上高の推移


世界の美術品市場における割合

☑︎2019年の世界の市場規模(7.0兆円)に本調査の国内事業者の市場規模(2,270億円)をあてはめると、日本の割合は3.2%と推計される。2018年の2.8%から上昇した。

※ 互いの調査の市場規模の推計方法・定義などが異なるため、あくまでも参考値としての   位置づけであることに留意されたい。

Art Basel & UBS「The Art Market 2019」のデータは全世界の人々による、当該国内における美術品の取引額を推計しているのに対して、「日本のアート産業に関する市場レポート」では日本在住の日本人による美術品の購入額を推計している。
世界の美術品市場の国別割合(2019年)


第3章:属性別のアートの購入傾向

◇本章の概要
■美術品等の購入に関して注目が集まっているが、市場規模と同様に、その購入実態についてはあまり明らかにされていない。この状況を受け、本章では、美術品の購入実態について、より詳細に分析を行っている。
2020年調査データは感染症の拡大を受け、これまでとはイレギュラーな回答結果となってしまっているため、分析にあたっては2019年調査のデータを基に行った。

■なお、分析の視点は以下のとおりである。
  • 「美術品」と「美術関連品」に関する、「購入経験(一生に一度でも購入した人の割合)」と「過去3年間の購入率(過去3年間の間に購入した人の割合)」について全世代と性年代別、チャネル別・ジャンル別の分析 ※美術関連品:著名な絵画を複製したポスター・ポストカード、展覧会の図録・カタログ等の美術書、著名な絵画・彫刻等をモチーフとしたグッズ
  • 過去3年間における美術品購入金額別の人数割合と金額割合
  • 「美術品購入」と「博物館・美術館訪問」の状況


◇美術品・美術関連品の購入経験/過去3年間の購入率

☑︎一生で一度でも美術品の購入したことのある人は18.4%、過去3年間における購入9.7%。
ともに、美術関連品のほうの割合のほうが高い。
互いのセグメントの重複が大きくないこともポイント。


◇美術品・美術関連品の過去3年間の購入率(性・年代別)

☑︎美術品は男性、美術関連品は女性が購入する傾向。
性年代でみると美術品は男性30代、美術関連品は30~50代女性が購入。


◇ジャンル別の購入経験/過去3年間の購入率

☑︎陶芸は経験・3年購入率ともに高い。
経験との比較において現代美術や工芸は3年間で特に購入されている傾向。 


ジャンル別の購入経験・過去3年間の購入率(2019年)   


◇ジャンル別の購入経験/過去3年間の購入率(性・年代別)

☑︎現代美術は20代・30代男性が購入。30代男性は陶芸・工芸にも関心。


◇チャネル別の過去3年間の購入率

☑︎国内の画廊・ギャラリーの割合が高い。
国内ミュージアムショップも額の規模は小さいが購入率は高い。

チャネル別の過去3年間の購入率(2019年)


◇チャネル別の過去3年間の購入率(性・年代別)

☑︎画廊・ギャラリーは30代が利用。百貨店は30から40代・60代と幅広い世代が利用
(ただし割合は全て画廊・ギャラリーのほうが高い)。
30代男性は両チャネルともに購入率が高い。 


◇過去3年間における美術品購入金額別の人数と金額の割合

☑︎ 10万円以上の購入者は人数ベースでは18%だが、金額ベースでは85%にのぼる。

過去3年間における美術品購入金額別の人数割合と金額割合(2019年)


◇「美術品購入」と「博物館・美術館訪問」の状況

☑︎「過去3年間に美術品を購入した方」と「過去1年間に博物館・美術館多く訪問した方」の重複は少ない。  美術展の愛好者の増加が、美術品購入者の増加につながるとは限らない。


第四章 人々のアートへの関心と使用メディアとの関係

◇本章の概要

■近年、人々の関心を集める展覧会の傾向が変わってきている。従来どおり国外の有名美術館の名を冠した展覧会や誰もが知る著名な芸術家の作品展は人気であるが、一方で、マスメディアで取り上げられていない展覧会であってもSNSで話題にになることで長蛇の列が生まれることもしばしばである。

■本調査では市場推計等の定点的な調査のほか、毎年、特定のテーマを設け調査・分析を行っているが、2020年調査では、人々の美術の展覧会に関する関心のポイントや参考としているメディアなどを調査した。

■なお、調査項目は以下のとおりである。


◇関心を持つ展覧会(全世代)

☑︎「世界的に有名な作家の展覧会」、「海外の有名な美術館のコレクションを展示した展覧会」が人気。 


◇関心を持つ展覧会(20代女性)

☑︎全世代と比較すると、自分達の価値観やコミュニティの情報に基づいて判断している。
 

20代女性の関心を持つ展覧会(2020年)

(n=384)


◇関心を持つ展覧会(性年代別)

☑︎年齢層が低くなるほど写真撮影・SNSがポイントに。
一方、作家や美術館の知名度、希少性には関心が薄い。


◇美術に関心を持つポイント(全世代)

☑︎作品そのものの美しさ、テーマ・コンセプト、作られた時代背景、ストーリーなどに関心。 


◇美術に関心を持つポイント(性年代別)

☑︎年齢層が低くなるほど作品の背景情報に関心。女性では作家に関心を持つ傾向。 


◇美術展開催を見聞きしたメディア(全世代)

☑︎美術展を主催することが多いテレビ、新聞等のマスメディアの影響力は依然として大きい。 


美術展の開催を見聞きしたメディア(2020年)


◇美術展開催を見聞きしたメディア(性年代別)(1/2)

☑︎年齢が高くなるほどNHKの番組、新聞の影響が大きい。高齢女性ではポスター、美術館サイトの割合が高い。


◇美術展開催を見聞きしたメディア(性年代別)(2/2)

☑︎年齢が低くなるほどSNSによる認知が高くなる傾向。


◇美術展開催を見聞きしたメディア(地域別)

☑︎東京ではポスター、美術館Webサイトの割合が高く、地方ではテレビCMの影響が強い。


第五章 美術品の輸出入の状況

◇本章の概要

■分析においては財務省「貿易統計」を活用し、分析対象は「書画」、「コラージュその他これに類する装飾板」、「銅版画、木版画、石版画その他の版画」、「彫刻、塑像、鋳像その他これらに類する物品」とし、これら4つの区分をあわせて美術品と定義した。


◇美術品の輸出入額の推移

☑︎2014年以降輸入額と輸出額が拮抗していたが、2020年は輸出が激減。
 

美術品の輸出入額の推移


参考)美術品の輸出入額の推移

美術品の輸出入額の推移


◇書画の輸出入数の推移

☑︎輸出点数は拡大傾向であった。 


◇書画の輸出入数の単価の推移

☑︎輸出入ともに単価は低下傾向。
 

書画輸出入の単価の推移


第2部:美術品の価格推移調査
 
第1章:調査概要 

日本における30年間のアートオークションにおける取引データを調査・分析

■1.1 はじめに
美術品の価格推移を調査・分析を行うにあたって、⑴商品詳細⑵取引時期⑶取引価格という以上3つのデータを収集することが必要である。これらのデータが蓄積されているのは公開オークションであり、今回は特に日本でのアートオークションのデータを活用・分析する。公開オークションは、売り手が最も良い条件で売却するために考えられた古来からある仕組みである一方、商品の価格を周知するための役割も大きい。

美術品市場では商品の価格を一ギャラリーがマーケットメイクをできる額を超えてしまった場合に、コレクター同士が直接売買を行うことができるための仕組みとも言える。アートフェアでの取引を含むギャラリーでの相対取引の取引データを収集するのは困難なので、今後は美術品の価格推移を調査するにあたってアートオークションのデータを取り扱うこととする。

日本における一般に開かれた常設のアートオークション市場は1990年がはじまりだと考えられる。その30年の歩みと市場形成過程をデータで確認していくことにより、そのマーケット構造や課題を検討し、日本よりはるかに規模の大きい海外の美術品市場との差がなぜできたのかを考察していく。

■1.2 調査方法やデータに対する基本的な考え方について

•データの収集について
本調査では、インターネットで落札価格を公表しているアートオークションハウス(以下、オークションハウスとする)のうち、日本に本社を置くものを調査対象とした。収集できたデータ量は合計で約52万件にのぼるが、本邦に籍を置くオークションハウスで落札価格が電子化されていなかったり、開示されていなかったりするものもあり、全データではない。また、収集した情報も全ての年次のデータがあるわけではなく、オークションハウスもデータの完全性を保証するものではないため、社名や団体名は非開示とする。

•分析対象となるデータ期間
収集したデータの期間は1990年から2019年である。統計分析の見地から調査対象のデータを検討したところ、分析に適する母集団は2006年以降であると判断された。これは今回使用する分析手法を適用する際の適切なデータ量や新しいオークション市場の開設などの要因を総合的に考慮したためである。1.3節以降の分析では、2006年より前のデータについても言及するが、単純な記述統計にとどめ、詳細な統計分析については2006年以降を標本母集団としている。また、今回は収集したデータ約52万件の中から、分類基準に適合する出品件数199,605件(2006年以降のデータは173,019件)に絞り、分析の対象とする。

•価格データについて
本調査で用いる価格データは各アートオークション会社の公表する「落札価格」ではない。オークションでは落札価格に対して、手数料や保管、輸送、保険等の諸経費がかかるのが一般的で、その費用は落札価格の15%以上となる場合が多い。今回は、落札者が支払う現実的な金額で各種分析を行うために、以下のような数値を設定し、価格指標としての「取得価額」を算出した。
ただし、諸経費のうち輸送・保管に関わるコストは落札作品の大きさ、重さ、壊れやすさ、価格の過多、輸出の有無などにより相当変動が大きいため除外している。

•取得価格=落札価格+手数料+保険料
☑︎ 落札価格:各オークションハウスが公表する落札価格
☑︎ 手数料:2020年8月時点の各オークション会社の手数料を平均した額(落札価格の13.4884731%)
☑︎ 保険料:各種動産保険、美術品保険における料率や商慣習などをヒアリングした結果、今回は落札価格の1%と定義した。


•調査対象となる作品の分類について
アートオークションでは幅広いジャンルの美術品や調度品、骨董品等が取引される。本稿の主旨は、アートオークション市場において流通するもののうち、資産性があると考えられるものを対象にその価格形成メカニズムを考察することである。

よって、アートオークション市場のなかでも、絵画、立体作品を中心に主に作家単位で日本画、日本洋画、現代美術、海外作品(印象派などの作品)、その他の美術品(インテリアアート、版画家作品、彫刻等)に分類される作品のうち、5ジャンルに絞り調査対象とした。ただし、これらの分類の基準はあくまでもアートオークション市場のものである点に注意を要する。

例えば、アートオークション市場では海外作品のいくつかは現代美術のオークションで売買されるケースもあるし、作家の作風の変遷により、ある時期の作品は日本洋画と分類され、ある時期の作品は現代美術として分類出品されることもある。つまり、美術史論的には大いに異論がある分類がなされているケースも確認された。しかし、本稿の目的は1つ1つの作品に着目することではなく、国内のアートオークション市場を計量経済学的な視点から俯瞰し、マーケット構造そのものの特徴への理解を深めることにある。そのため、原則としてオークション市場における分類をそのまま利用することとした。

 

 


第2章:日本の公開オークションの分析結果 

◇オークション市場における落札価格の特徴①

☑︎美術品の価格分布は散らばりが極めて大きい


表1は,取引年次別に出品件数,落札件数,非落札件数,落札率,および取得価額を集約している。
出品件数および落札件数ともに年々増大しており,特に,1998年から  1999年にかけての時期と2005年から2006年にかけての時期に出品数の急増が観察される。

期間全体では164,140件の落札があり,落札率は82%であるが,2010年以降では落札率は若干低下傾向にある。 取得価額の平均値は1990年代に急落しており,2001年および2009年に価格水準の底がある。2010年以降は、570[千円]から889[千円]の間で推移しており,この期間の平均は721[千円]である。価格の散らばりは極めて大きく,変動係数より標準偏差は平均値の3~5倍にもなることがわかる。

この結果から、美術品の価格分布から価格の散らばりが極めて大きい、分散がきいていることがよくわかる。

 

◇オークション市場における落札価格の特徴②

☑︎四分位の導入
データの値を大きさの順に並べたとき、4等分する位置の値を四分位数という。四分位数は、小さい方から順に第1四分位数、第2四分位数(中央値と同じ値)、第3四分位数といい、データの散らばり度合いを表現するときに使用する。後に出てくる中央値とは第2四分位数にあたる値である。

表2は,落札された作品の取得価額の四分位数を,表1と同様の取引年次別に整理している。期間全体では,第1四分位数80[千円]から第3四分位数481[千円]の間に落札された作品の50%が含まれており,中央値は172[千円]であることが示されている。 大半の年次で価格の上下変動が観察できるが,近年では2015年,2016年,2017年において価格分布が同一であるという帰無仮説を棄却できない。

したがって, 2010年以降は中央値の推移をみてわかるように比較的価格が安定している時期であるといえる。

 

◇オークション市場における落札価格の特徴③

 ☑︎価格分布の特徴

①左裾が軽い
図1は全期間の価格分布をヒストグラムで示している。ただし,横軸スケールを常用対数で表記している。対数価格においても分布の左裾が軽く、一方で右裾は重く左右対称な分布とはいえない。 左裾が軽いのは、オークションの執行コストがあり、商品の価格が安すぎるとそのコストが賄えないから、ある一定額以下の商品は出品されない。

②右裾が重い
美術品に限らず消費や投資は需要者の購買力に依存している。人々の購買力を示す所得や資産の分布は多くの場合,右裾の重い分布であることから,取得価格の分布もこれを反映しているといえる。


③平均値付近に頻度が高い
また、平均値付近にデータが集中し過ぎている点も特筆すべき点であるが、後述するように、業者間取引市場という特徴を持ちながら始まった本邦のアートオークション市場の成り立ちを踏まえると、一般のオークション参加者(買手側)の平均買付余力の額とみるよりは、画廊同士の業者間取引の存在を考えるのが自然であろう。だとすると、アートオークション市場は画廊等の一つの仕入れを行う場という機能を果たしていることになる。


◇オークション市場における落札価格の特徴④

☑︎箱ひげ図による分析

図2は取得価格の推移を取引年次別の箱ひげ図で示している。ただし,取得価格の値幅を圧縮して特徴を掴みやすくするために縦軸スケールを常用対数としている。箱ひげ図は第1四分位点から第3四分位点までの高さに箱を描き、中央値で仕切りを描くことで作成される。図1でも示されたとおり、取得価格はファットテール(右裾の重い分布)である。ここで,「箱」の上部にある「ひげ」は第3四分位数 + 1.5×四分位範囲となる値を,下部にある「ひげ」は第1四分位点 - 1.5×四分位範囲となる値をそれぞれ示している。図には上部の「ひげ」を超える観測点が記されており,ほぼすべての取引年次において極めて高額な外れ値が観察できることがわかる。

☑︎原資産価値を有する美術品が存在

どの年次においても箱ひげの上限である第3四分位数を超える観測点がいくつか観察されており,極端に高い取得価額の作品がふくまれていることがわかる。
需要と供給による価格の決定は通常、買手の資産の分布に依存するという前提を置いたうえで、さらに図1の結果を合わせて検討すると、一定数のビッグコレクターの存在が考えられる。
この極端に高い価格の作品について、マーケットの状況によらない原資産価値を有する美術品が存在すると言える。 


◇ジャンル別・サイズ別にみた取得価額の特徴① 

 ☑︎現代美術のパフォーマンスが際立つ

2006年以降の落札データを分析表1で示したように,1990年代および2000年代前半は十分なオークション出品数が観察されておらず,オークションハウスも1箇所だけに限定される。
2006年以降は複数のオークションハウスのデータが利用可能であり,観察されたデータの大きさも十分である。
2006年以降のデータサイズは,全期間の87%(出品数は173,019件,落札数は139,464件)であることから,以下では2006年以降のデータを利用して取得価額の特徴を明らかにする。


◇ジャンル別・サイズ別にみた取得価額の特徴②


☑︎現代美術のパフォーマンスが際立つ

表3は,5つのジャンル別に集約した落札件数と取得価額を示している。最も落札件数の多いジャンルは「2: 日本洋画」であり,全体の33%を占めている。

最も取得価額高いジャンルは「3: 現代美術」である(平均1223[千円],中央値229[千円])。 図3は,5つのジャンルの取得価額中央値の推移を2006年から2019年まで示している。「1: 日本画」,「2: 日本洋画」は下落傾向にあり,「3: 現代美術」は2012年以降に急騰し,高い水準を維持していることがわかる。


◇ジャンル別・サイズ別にみた取得価額の特徴③

☑︎サイズが大きいほど高額
図6は,サイズ(号)別の取得価額中央値を示している。中央値は,サイズが0 – 3 号の場合137[千円],4 – 10号の場合137[千円],12 – 50号の場合172[千円],および60 – 500号の場合366[千円]となっており,サイズが大きくなるほど取得価額は高額になる傾向が示されている。

 


◇ジャンル別・サイズ別にみた取得価額の特徴④

☑︎現代美術に比べて日本画、日本洋画は流通している作品サイズが小さい

表3,4および5は,落札件数についてのサイズとジャンルのクロス集計を3つの時点に分割して行ったものである。

サイズは0 – 3 号,4 – 10号,12 – 50号,および60 – 500号の4種類にカテゴライズした。日本画,日本洋画は4 – 10号が半数以上を占めている。 現代美術は4 – 10号と12 – 50号がどちらも4割程度である。海外作家は12 – 50号が半数以上である。その他の美術品は0 – 3 号が3割程度であり,近年,4 – 10号の割合が増え,12 – 50号の割合が落ちている。

 


◇ジャンル別・サイズ別にみた取得価額の特徴⑤

☑︎日本画、日本洋画は大きいサイズで下落傾向
表6,7,および8は,取得価額の中央値をサイズ別・ジャンル別に集約したものを3時点について示している。

日本画と日本洋画では,小さいサイズ(0 – 3 号,4 – 10号)の価格は安定しているが,大きいサイズ(12 – 50号,60 – 500号)のものが下落傾向にある。 現代美術では,どのサイズにおいて一様に価格が上昇している。 海外作家では,0 – 3 号においてほとんど変化がないが,12 – 50号と60 – 500号では価格の下落傾向が観察できる。その他の美術品では,0 – 3 号と60 – 500号において下落しており,4 – 10号と12 – 50号は価格が比較的安定している


◇作家別にみた取得価額の特徴

☑︎草間彌生が上昇、他の作家は緩やかな下落

表9は落札件数の多い作家上位10名について,2006年から2019年までの期間における年間平均価格の変動率を示している。 草間彌生作品の取得価額は急騰しているのに対して,藤田嗣治,棟方志功,東山魁夷,織田広喜,および平山郁夫は下落傾向にあることがわかる。 2006年以降のオークション市場で落札された作家の数は3833名であり,物価水準で調整した総取得価額が10億円を超えた作家の数は20名であった(中央値は1,497千円)。 図7は,落札件数の多い作家上位10名の取得価額の年間中央値を2006年から2019年まで示している。


第3章:日本の公開オークションの分析結果

◇日本のアートオークション市場における各年代別の価格形成の特徴
1.   1990年~1994年 アートオークション市場の誕生

■市場の概観
1988年頃から始まったとされるバブル景気により世界的に美術品の価格が上昇し、日本の美術品市場でも日本画、日本洋画、印象派絵画を中心に美術品価格の上昇が続いた。そのさ中の1989年、日本画、日本洋画を扱う大手の画廊により、業者交換会を母体とするシンワアートオークション(以下シンワオークション)が設立され、翌1990年9月、日本で初めて公開の場での本格的な美術品オークションが開催された。第1回のセールでは、日本を代表する錚々たる顔ぶれの日本画家、洋画家の名品が出品され、出品作102点のうち1億円以上で落札された日本画家は13名、洋画家は4名という好調な結果となった。しかし、落札率は81%であり、不安の要素も見られる結果でもあった。

その不安は、1990年5月ごろからの世界的なバブル崩壊の兆しによるもので、翌1991年2月に開催された第2回のセールでは、出品作85点のうち1億円以上で落札された日本画家は東山魁夷、杉山寧の2名、洋画家は小磯良平の1名のみであった。落札率も54%と不振に終わった。同年5月に開催された第3回のセールでは、既に1億円以上の落札予想価格の作品は出品されず、出品作84点のうち1千万円以上で落札された日本画家は伊東深水の1名、洋画家は林武の1名だけであった。また前回同様落札率も57%と不振が続いた。

第1回のセールから1年後の9月のセールでは、出品作も75点と大幅に落ち込み、このうち1億円以上で落札された作家は杉山寧の1名だけであった。落札率は32%という結果で、バブルの崩壊が確実な形で示された。第1回のセールから4年後の1994年10月のセールでは、落札率こそ74%に改善したものの、1億円以上の落札予想価格の作品は菱田春草の一点のみで(不落札)、出品作145点のうち1千万円以上で落札された日本画家は東山魁夷、村上華岳、横山操、富岡鉄斎の4名、洋画家は梅原龍三郎、児島善三郎、山口薫、藤田嗣治の4名だけであった。 

■時代の顔:バブル期を代表する作家
日本画(現存):東山魁夷、加山又造、平山郁夫、高山辰雄、杉山寧、奥田元宋

日本画(物故):横山大観、速水御舟、村上華岳、上村松園 日本洋画(現存):中山忠彦、牛島憲之、中川一政

日本洋画(物故):梅原龍三郎、小磯良平、岡鹿之助、山口薫 

2.   1995年~1999年 市場の調整期 

■市場の概観
1990年後半から始まったバブル崩壊により世界的に美術品の価格が急落し、日本の美術品市場でも日本画、日本洋画、印象派絵画を中心に美術品価格の急落が続いた。

1994年頃から市場は調整局面に入り、1995年9月のセールでは、1億円以上の出品作品はなく、出品作139点のうち1千万円以上で落札された日本画家は奥田元宋、村上華岳の2名、洋画家は林武、三岸好太郎の2名だけであったものの、落札率は87%とセールとしては好調であった。これは1/10まで下落をすすめてきた美術品価格の底が見え始めてきたことを示している。その後も、美術品価格の相場の低調の流れは引き続いていくが、下落率は縮小しつつあった。オークションでの出品作品を見ると、バブル期に見られた物故を中心とした日本画、日本洋画の錚々たる大家の出品は減り、千住博など既存の画壇に属さない新進の作家銘柄が登場する。

一方で、欧米はどうだったか。平成11年度11月版の「世界経済白書-アメリカ経済の長期拡大と問題点-」(経済企画庁)によれば、「アメリカ経済は、91年3月に景気回復を始め、99年10月に至るまで8年7か月もの長期にわたる景気拡大を続けている。」とある。それを裏付けるように1997年頃から欧米の美術品市況は回復傾向が鮮明になる。オークション市場でも、1998年6月のSotheby’s Londonのセールでモネの「睡蓮の池と水辺の小道」が落札予想価格上限の3倍の1800万ポンドという最高額で落札されるなど好調に推移した。そうした好調な欧米の美術品市場との接点を持つ、藤田嗣治、荻須高徳、ヴラマンク、ユトリロ、シャガールなどの国際銘柄作家の作品が、日本のオークション市場に出品されるようになった。

1999年9月のセールでも、1億円以上の出品作品はなく、出品作234点のうち1千万円以上で落札された日本画家は村上華岳、横山大観の2名、洋画家は岡鹿之助、梅原龍三郎、浮田克躬の3名だけであったものの、落札率は87%とセールとしては好調であり、回復の傾向を見せつつも、欧米の美術品市場と比べ、未だ市場が調整局面であることを示唆している。

■時代の顔:調整期を代表する作家
日本画(下落):杉山寧、高山辰雄、岩橋英遠、奥田元宋
日本画(新規):千住博 日本洋画(下落):梅原龍三郎、小磯良平、中山忠彦日本洋画(新規):藤田嗣治、荻須高徳 
海外(新規):モーリス・ド・ヴラマンク、モーリス・ユトリロ、パブロ・ピカソ、ベルナール・ビュッフェ、マルク・シャガール

3.   2000年~2004年 調整後の市場とITバブル、現代美術の登場

■市場の概観
 2000年以降も価格は低迷したままではあったが、2000年9月のセールでは、出品作は248点にのぼり、うち1千万円以上で落札された日本画家は鏑木清方、上村松園、横山大観、橋本関雪、竹久夢二の4名、洋画家は藤田嗣治、岡鹿之助、佐伯祐三の3名だけであったものの、落札率は87%とセールとしては好調であった。セールにはオノサト・トシノブ、吉原治良など現代美術作家の顔ぶれも見られ、海外で伸長している現代美術市場への呼応として見ることもできる。

2001年9月のセールでは、231点の出品に対し、1千万円以上で落札された日本画家は平山郁夫、加山又造、伊東深水、小野竹喬、小倉遊亀の5名、洋画家は藤田嗣治、佐伯祐三、林武、荻須高徳、岡田三郎助の5名、海外作家はジョルジュ・ルオー1名であり、落札率86%に加え、高額の価格帯での活況なセールであった。これは1999年から2000年にかけてのITバブルによる好況の影響と考えられ、わずかながら美術品市場にもその恩恵がもたらされたと見るべきであろう。ITバブル崩壊後の2002年から2003年にかけての不況の影響も、2002年9月のセールでは落札率は88%を誇りながら、1千万円以上で落札された作家はわずかに2名と振るわず、翌2003年9月のセールでは、1千万円以上で落札された作家は7名に盛り返すものの、落札率は83%と落ち込んでいる。

しかしながら、調整を終えた市場全体としてみると、2000年から2004年にかけての美術品市場は、価格の大幅な上昇は伴わないが、総じて安定した状況を見せていたものといえる。

■時代の顔:
日本画(常連):横山大観、東山魁夷、平山郁夫、加山又造、棟方志功
日本洋画(常連):藤田嗣治、荻須高徳、梅原龍三郎
現代美術(新規):オノサト・トシノブ、吉原治良


4.   2005年~2009年 リーマンショックの影響と現代美術市場の創設

■市場の概観
 比較的好調に推移した2000年~2004年の美術品市場の流れを受けて、2005年以降もオークション市場での美術品の取引量は増加し、落札率も高止まりの傾向が続く。海外の美術品市場も現代美術を中心に好況で、そうした傾向は2005年のセールに見て取れる。

2005年9月のセールでは、出品作は181点で、うち1千万円以上で落札された日本画家は平山郁夫、横山大観、加山又造、杉山寧、前田青邨の5名7作品、洋画家は荻須高徳、坂本繁二郎、岸田劉生、梅原龍三郎、鴨居玲の5名6作品と多く、海外作家ではピカソの油彩作品が1億円を超えて落札されたのに加え、1千万円超えの海外作家は、ヴラマンク、キース・ファン・ドンゲン、ピカソ、ジャン・フォートリエら4名4作品であった。落札率も92%と極めて好調であった。特に、ジャン・フォートリエ、サム・フランシス、アントニ・クラーベら海外現代作家の作品の出品が目を引き、海外での現代美術作家の市場での伸長を裏付けるものとなった。この美術品市場の好調は2007年まで続き、2007年4月には、海外での現代美術市場の躍進に乗るかのように、シンワオークションで第1回の現代美術専門のオークションが開催されることになる。

2007年4月の第1回の現代美術のセールでは、出品作は120点で、うち1千万円以上で落札された作家は奈良美智、小林孝亘、天明屋尚の3名6作品、100万円以上での落札は、草間彌生、奈良美智、村上隆ら既に欧米の美術品市場で評価の高い作家に加え、斎藤義重、李禹煥、蔡國強、加納光於、町田久美らが登場した。落札率は96%と極めて好調であった。2007年11月には第2回の現代美術のセールも開催され、出品作は初回を上回る120点で、うち1千万円以上で落札された作家は草間彌生、李禹煥、宮島達男、石田徹也、アンディ・ウォーホルの5名8作品、不落札に終わったが、草間彌生のアクリル/キャンバス作品が落札予想価格を6千万円まで付けるなど活況であった。落札率も99%と驚異的なものになった。こうした美術品市場の拡大の動きの中で、2007年からリーマンショックが発生し、2008年後半から2009年にかけて美術品市場でも世界的にその影響を受けることになる。

2008年4月のシンワオークションの現代美術のセールは、出品作は354点で落札率は91%と好調で、うち1千万円以上で落札された日本人作家は奈良美智、草間彌生、白髪一雄、山口晃4名で、海外作家はルーチョ・フォンタナの1名だった。しかし、2008年11月にマカオで開催されたシンワオークションの現代美術のセールは、出品作は296点、落札率は52.4%と急速にセール状況が悪化した。続く12月のワイン、デザインとの共同出品で開催された現代美術セールでは、現代美術の落札率は70%、平均落札価格は7万円と低調なセールに終わった。以後、シンワオークションでは単独の現代美術のセールは開催されなくなり、日本画・日本洋画などと一緒に開催されることになる。

■時代の顔:
日本画(常連):横山大観、東山魁夷、平山郁夫、加山又造、棟方志功、千住博
日本洋画(常連):藤田嗣治、荻須高徳、梅原龍三郎
現代美術(新規):草間彌生、奈良美智、李禹煥、白髪一雄、斎藤義重

5.   2010年~2014年 世界の美術品市場の回復と現代美術市場の躍進

■市場の概観
 リーマンショック後の日本の美術品市場は依然低迷を続けていた。リーマンショック以前から低迷を続けてきた日本画、日本洋画市場は、リーマンショックによる際立った影響を受けず、2009年のシンワオークションでは、日本画、日本洋画、印象派絵画を中心としたセールでは、出品作品122点、落札率90%であった。リーマンショック以前に急伸した現代美術市場は、世界的な美術品市場の低迷のあおりを受け、市場が大幅に落ち込むことになった。ここに、日本画、日本洋画を中心とした日本市場と、世界の美術品市場と連動した現代美術市場間の市場動向の大きな乖離が露呈されることになった。 
 2010年になると、欧米の美術品市場はリーマンショックの影響による落ち込みから急回復の動きを見せる。日本画、日本洋画市場は、相変わらず横ばいあるいは下降トレンドの相場を示すが、現代美術市場は世界の美術品市場の急伸と呼応した形で上昇トレンドを描いていくことになる。 
 2009年からシンワオークションが現代美術からの事実上の撤退の動きを見せ、日本画、日本洋画中心のセールに回帰する一方で、世界的な現代美術の躍進を見て、2012年2月、現代美術専門のオークション会社としてSBIオークションが誕生する。 2012年2月の第1回のSBIのセールは、出品作は92点で、日本洋画の小磯良平の作品が1点出品されるが、その他はすべて現代美術作品で構成されていた。落札率は81.5%で落札平均価格は536万円(落札手数料込)と上々の出来だった。うち1千万円以上で落札されたのは、草間彌生3点、李禹煥2点で白髪一雄の713万円での落札が続いた。なかでも草間彌生の「Infinity Nets WHXOTLO」は1億を超えての落札となった。
2012年9月のシンワオークションのセールでは、出品作は85点で、現代美術の李禹煥、元永定正の作品が3点出品されたが、その他は日本画、日本洋画、海外作家の作品で構成されていた。落札率は86%で落札平均価格は203万円の出来だった。うち1千万円以上で落札された作家は村上華岳の1名だけだった。日本画、日本洋画の出品作家の顔ぶれにはあまり変化が見られないが、千住博の作品が6点出品され、そのうち5点が落札価格上限を超えての落札となり、衰退著しかった日本画の市場での、人気の高い新規アイテムの登場をうかがわせた。 

時代の顔:
日本画(常連):横山大観、東山魁夷、平山郁夫、加山又造、棟方志功、千住博
日本洋画(常連):藤田嗣治、荻須高徳、梅原龍三郎
現代美術(常連):草間彌生、奈良美智、李禹煥、白髪一雄


2015年~2019年 世界と繋がる日本の現代美術市場と市場の実態

 ■ 市場の概観

 2015年~2019年の世界的な美術品市場では、現代美術を中心に、引き続き価格の上昇が続いた。日本の美術品市場も、現代美術の伸張と日本画、日本洋画市場の停滞という状況に大きな変化はない。日本画、日本洋画の市場では、千住博などごく一部の新規アイテムが出品される以外は常連作家の出品が続き、固定した状況が続く中、現代美術市場では世界の美術品市場との繋がりという利点を生かし、続々と新しいアイテムが投入されていた。
  2015年1月のSBIのセールは、出品作は279点で、落札率は81.5%だった。このうち、草間彌生、奈良美智、村上隆、李禹煥、白髪一雄、元永定正ら常連の作家の作品はセール全体の21%を占める一方で、海外作家の割合は38%のぼった。それ以外の41%についてはロッカク・アヤコやタカノ綾などの新規アイテムと、田中敦子、横尾忠則、菅木志雄ら古参作家の再評価による出品となっていた。こうした状況はさらに広がる傾向を見せ、2019年10月のSBIのセールは、出品作209点(落札率は91.4%)のうち、日本人作家の作品はセール全体の10%に過ぎなかった一方で、海外作家の割合は90%を占めた。2015年に41%を占めた新規アイテムについては、ロッカク・アヤコ、五木田智央、ミスター、ハロシなどを除き、出品リストから消えている。
 この現象から垣間見られるのは、海外の現代美術市場による日本の現代美術市場の吸収であり、日本発の新規アイテム作家の脆弱さであり、突き詰めれば、日本の美術品市場の凋落という見方もできる。現代美術市場の常連2作家である、草間彌生、奈良美智の2015年~2019年の間に2億円以上で落札された上位30位の高額作品は、すべて欧米、アジアのオークションでのセールで売買されたものだった。そのため日本では独り勝ちの印象を受けるSBIのセールでの平均落札価格は100~200万円台で推移しており、海外と比較すると小ぶりの作品が取引されるローカルな市場という姿が映し出される。また、新規アイテムが市場に続々と登場し、高騰ののち数年で消えていくという現象も多くみられ、現代美術ブームに隠された投機的な取引という側面も映し出している。

■時代の顔:
日本画(常連):横山大観、東山魁夷、平山郁夫、加山又造、棟方志功、千住博
日本洋画(常連):藤田嗣治、荻須高徳、香月泰男
日本洋画(下落):梅原龍三郎現代美術:草間彌生、奈良美智、李禹煥、白髪一雄、ロッカク・アヤコ、カウズ、五木田智央

 


参考:5年単位の総取得価額の集計 1990年~2004年

参考:5年単位の総取得価額の集計 2005~2019年


◇海外(欧米)の絵画市場と日本の市場との違い

☑︎海外での流通システムの変遷
 現在、美術品として国際的にひろく認識されている作品のほとんどは、ギリシア、ローマ美術から続く西洋美術史にルーツを持つものであり、東洋美術史に属する日本画や、中国、台湾での筆墨、顔料などを用いた伝統的な美術の国画などは、欧米の美術品市場では亜流として位置づけられている。本流である西洋美術史ルーツの美術品は、国際的な美術品市場で流通するが、亜流の美術品は大手国際オークションの国別のセールか、母国の国内市場でしか流通しなかった。

 主として油彩、キャンバスで描かれる日本洋画は、西洋美術史ルーツの本流の美術品のひとつと思われがちだが、そもそもは日本画のアンチテーゼ的な存在であり、本流の作品とはみなされてはいない。例外は藤田嗣治や荻須高徳らであり、彼らは渡仏し、本流である現地のアートシーンで活動を行ってきたために国際的な美術品市場に組み込まれているが、それ以外の、日本国内の画壇での活動を主としてきた日本洋画の作品は、日本画と同様に亜流の美術として位置づけられている。

こうした背景から、欧米の国際的な美術品市場では、西洋美術史ルーツの美術品が主に取引され、日本市場では、日本画と日本洋画が主に取引されてきた。また、バブル経済に至る戦後の長い経済成長の中で、積極的に輸入してきたルノワールに代表される印象派を中心とした西洋美術も、日本の美術品市場では主力商品として流通してきた(本稿における「海外作家」に分類されることが多い)。つまり、日本の美術品市場では、国内市場向け(亜流)の日本画、洋画作品、国際的に流通する西洋美術作品の取引が行われてきたのだ。亜流の美術品は、自国経済の状況によりその作品相場が大きく左右される。

1980年代のバブル経済時には、日本の美術品市場の主力であった日本画、日本洋画の相場は高騰し、印象派絵画の相場も大幅に上昇した。1990年代初頭にバブルが崩壊すると、日本画、日本洋画の相場は暴落を始め、国際的な美術品である印象派銘柄の海外作品も、日本人による需要が激減した影響もあり大きく相場を下げることになった。

1990年の中頃になると、欧米の経済は好転し始める。それに伴い欧米の美術市場も復調の兆しを見せ、1995年頃から印象派、近代美術の高額での落札が見られるようになった。そうした動きの中で、それまで印象派以上に低迷を続けてきた現代美術作品の相場が上昇の動きを見せ、2005年以降印象派に代わる主役の座を占めることになる。現代美術の台頭の理由として、資産の入れ替えが行われた可能性があると考えられる。バブル崩壊により印象派作品の売却で損失を受けた投資家が、その売却資金を、将来利益を生み出す可能性がある低額の作品に向けることで、損失分を取り戻そうとする動きだ。また、現代美術への長期的な投資資金流入の背景には、印象派、近代美術作品の市場での供給の枯渇という側面もある。

 現代美術が持つ、市場への作品供給量の豊富さは、美術品を投資用資産として投資家たちにアピールすることになる。現代美術は、それまでの西洋美術史というしがらみに囚われず、多様なスタイルが許容される為、非西洋美術史圏の国々も参加が可能なジャンルであった。そのため、バブル崩壊の後遺症に悩む日本を尻目に経済成長を遂げた、中国や韓国、香港、シンガポールなどでも積極的に紹介され、新たな国際的美術品としての発展を遂げるとともに、それらの国々で多様な現代美術作家が生まれることにつながった。新しい作家が生み出されていくという状況は、低額で購入でき将来高騰する可能性がある美術品が供給され続けることを意味し、投資家に新しい投資環境を提供することになり、現代美術の今日までの発展を後押ししている。
☑︎国内の流通システムの変遷
日本では、美術品市場における日本画、日本洋画の占有率が大きすぎ、現代美術は主力作品とみなされず殆ど流通してこなかった。バブル崩壊後は、世界的な経済成長の波に乗ることができず、失われた20年と言われるように経済的な低迷を続けた。美術市場でも経済的な低迷を受け、美術品市場は急激に縮小し、世界で広がる現代美術の波にうまく乗ることができなかった。それでも、世界的な現代美術の伸張の流れを受け、2000年代になると、日本の美術品市場においても現代美術を重要な商品として取り扱う姿勢が見られるようになる。2006年には、主に日本画と日本洋画を扱ってきたシンワアートオークションが、現代美術のセールを開始するようになり、2012年には現代美術作品を専門的に扱うSBIアートオークションが設立されるなど、日本もようやく国際的な美術品市場との接点を持つようになった。

 国際的な美術品市場との接点を持たなかった、国内市場向けの日本画、日本洋画作品の相場は引き続き低迷を続ける一方で、一躍国際的美術品の地位を得た現代美術作品は、欧米やアジアでのアートフェアやオークションを中心に販路を広げ、相場を上昇させていった。2018年には、国内のオークション市場での総売買代金では、現代美術作品が、日本画、日本洋画の両者の総額を追い越すようになっている。

 これからも日本画、日本洋画の衰退、現代美術の興隆という状況が続くと推測されるが、日本画と日本洋画のジャンルが消滅するわけではない。物故中心の古美術の市場と近似したものとして存続するものと思われる。一方で、日本画や油彩画の技法を学び創作活動をする若手の多くは、旧来の画壇に属することはなく、現代美術作家を扱うギャラリーで作品発表を行っている。伝統的な手法に現代性を加えた彼らの作品は、個性的な現代美術作品として高く評価されている。そうした新たな動きは、日本画の現存作家として唯一国内オークションでの総売買代金20位以内にランキングされる千住博が発端であり、これからの日本画の行方を示すものと思われる。


第3部:考察と今後の課題

■アートの商品性について
 アートの存在自体はすなわち商品とはいえない。ただ壁面や空間を埋めるためのインテリアだとしたら他の家具などと同様の消費財であって、時間経過で陳腐化していってしまう。しかし、名作と言われる作品はアートオークションでの長期的な推移を見ると上昇している。つまり、何らかの社会的な価値を有していることが推測される。 我々は2016年より「日本のアート産業に関する市場レポート」を調査しているが、これはそのアートの商品性を明らかにするアプローチである。アートが商品であることを拒むものもいるが、それはさておき、今まで調査されたことなかった、まず現在どれくらい購入されているかを明らかにした。そして、その購入にいたる商品性の認識について調査している。今回の調査で、美術館及び美術展を主催しているメディアがその認識を歪めていることが示唆された。

 日本のアート市場規模を欧米と比較して、かなり小さいことがよく取り沙汰されるが、これは商品性の違いであると考えられる。欧米や中国ではアートはその定義からも商品性からも明らかに認識されている。美術品のための税制も整備されている。美術館やメディアも巻き込んだアートの商品性の認識の変更が必要となるが、そもそも価格推移を分析して資産性を証明することも必要となる。

 今回の調査で初めて、過去のアートオークションでの価格推移を調査・分析して、扱われる商品が美術品と美術工芸品に分けられ、美術品には原資産価値を有することが証明された。

 アートの商品性とともに重要なのが流通である。今回の調査によって、日本では百貨店とギャラリーが二大チャネルであることが確認された。ギャラリーがそのプロダクトサイドとマーケットサイドの仲立ち=マーケットメイキングを行っているが、果たして資産性に基づいて商人として、顧客の資産を増やすような行動ができているかが、今後のアートマーケット拡大のポイントとなる。価格の高いアート作品の売買に関わるために必要となるギャラリーの資本力も重要だ。そして百貨店は資産性についてどれくらいの寄与をしているのかも明らかにしたい。

我々はこのアートの商品性と流通の両方を今後とも明らかにしながら、今後の日本のアートマーケットの成長に寄与して行きたい。


「日本のアート産業に関する市場レポート 2020」
Japanese Art Industry Market Research Report 2020
文化庁委託事業「令和2年度次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」

主催:文化庁/一般社団法人 アート東京
企画・調査設計:一般社団法人 アート東京
第一部 調査設計・分析・レポート作成:一般社団法人 芸術と創造
第二部 調査設計・分析・レポート作成:株式会社QUICK


【調査体制】
一般社団法人 アート東京 マネージングディレクター               
北島 輝一

一般社団法人 アート東京
嶋岡 紘志

一般社団法人 芸術と創造 代表理事
綿江 彰禅

株式会社QUICK   イノベーションセンター
武井 昭仁

富山大学 経済学部
唐渡 広志

京都芸術大学大学院芸術研究科/アートコンサルティングファーム
加藤 淳


過去のレポート

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市場調査2016
日本全体の美術品市場規模をに関する市場規模を算出。美術品市場は2,431億と推計しました。
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市場調査2017
日本の美術品市場規模は2016年実施の同調査の2,431億円から微増の2,437億円と推計しました。
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2018年の美術品市場規模を2,460億円と推計しました。2016年、2017年に続き3年連続で増加という結果。
日本のアート産業に関する
市場調査2019
日本全体の美術品市場規模を2,580億円と推計。1年間の伸び率は4.9%、本調査開始以来最も大きくなった。
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